あなたと共に。 「…桜、散ってしまったわね」 「そうだね。まあいつまでも咲いてるものでもないし」 「ふふ、そうね」 私はクスリと笑う。今の言い方がいかにも乃梨子らしかったから。 「まあ心配しないでも来年の春には一杯咲いてるって。また一緒に見ようね、志摩子さん」 私たちが今いるのは講堂の後ろ。ここには一本の大きな桜の木がある。なぜかこの桜の木は、ほかの桜の木よりも長い間花を咲かせていた。だけど、その桜も今となっては全て散ってしまっていた。 「そうね。…また、来年も一緒に見られるといいわね」 私がそう言うと、なぜか乃梨子は頬をぷくっと膨らませた。あ、かわいい。 「違うっ!見られるといいわね。じゃなくて、一緒に見るのよ。決定事項!」 なんて言ってくれる乃梨子。ああ、ほんとになんてかわいい妹だろう。今になって令さまや祥子さまの気持ちがわかった気がする。 「ふふ、そうね。ごめんなさい。来年も一緒に見ましょう。必ず、ね」 「うん!」 すっかり機嫌を治し、満面の笑みを浮かべる乃梨子。 そう、来年はまた一緒に桜を見に来ないと。その頃に私はどうなっているかはわからないけど、大丈夫。私には祐巳さんや由乃さんのような仲間がいる。そして… 「それで、瞳子がね…」 こんなにかわいい妹もいる。それに、いつも私を見守ってくれている優しいお姉さまも。 …ありがとう。私は桜の木にそっとつぶやく。あなたが私たちを出会わせてくれたから…私はここにいる。 「…志摩子さん、聞いてる!?」 「…え?え、ええ。聞いてるわよ」 「じゃあさっき何話してたか言ってみて」 「え、えっと…」 じと目で見つめてくるかわいい妹。どうしよう。全然聞いてなかった。 「…ごめんなさい」 「やっぱり…何考えてたの?」 怒ったというよりは、仕方ない、と言った表情を浮かべる乃梨子。…実はあんまりお姉さま扱いされてないのかしら、私。 「ちょっと、桜の木にお礼を言っていたのよ」 「お礼?」 このままなのも少し癪なので、私は乃梨子にちょっとした反撃をしてみる。 「こんなにかわいい妹に出会わせてくれて、ありがとう。ってね」 「なっ…」 耳まで真っ赤にする乃梨子。ふふ、やっぱりかわいい。…あ、なんだか今祐巳さんに手を出すお姉さまの気持ちが少しわかった。 「…私も、お礼言っとく。こんなに綺麗で素敵なお姉さまに出会わせてくれたことを」 「あら…」 なんて嬉しいことを言ってくれる乃梨子。私もきっとちょっと赤くなってしまっているに違いなかった。 「…さ、志摩子さん、いこっか」 「そうね。一緒に、行きましょう」 私は乃梨子の手を取って歩き出した。これからも、このかわいい妹と、共に過ごせますように。 あとがき。 |