白想 ―・シロノオモイ・―  
 


        「志摩子」
         学校の帰り道。
         もうすっかり葉を落とした銀杏並木を抜けて門をくぐると、後ろ
        から名前を呼ばれた。
         わざわざ振り返らなくても誰に呼ばれたのかわかっていたけど、
        志摩子は足を止めて振り返る。
         するとやっぱりそこには、思っていたとおりの人の姿があった。
         黒いセーターに白いマフラー、色の淡いジーパンを着用した、日
        本人離れした顔立ちの久しく会う人。ひらひらと手を振り、にかっ
        と笑っている。
         元白薔薇様であり、志摩子のお姉さまである佐藤聖、その人だ。
        「お姉さま…、お久しぶりです」
         志摩子はお姉さまと並んで歩き出す。お姉さまがクシャリと枯葉
        を踏んだ。
        「志摩子、今日アレは?」
         唐突にお姉さまにそう尋ねられ、志摩子はキョトンとした。アレ
        とは一体なんなんだろう。お姉さまは言うことに突拍子がなさすぎ
        て、たまに困る。
        「えっと…。お姉さま、アレとは何の事でしょう?」
        「アレって言ったらアレよ。志摩子の妹。あのオカッパの。一緒に
        帰んないの?」
         アレって乃梨子のことだったのか。志摩子はやっと納得した。
        「乃梨子は今日はクラスで話し合いがあるとかで。それにお姉さま。
        姉妹だからっていつも一緒に帰るわけではないと思います」
        「ま、そりゃそーだけどさ」
         クシャリ。またお姉さまが枯葉を踏んだ。
         沈黙。聞こえるのは、二人分の足音だけ。
         志摩子は、この沈黙が好きだった。お姉さまといる時の沈黙が。
         安っぽい言葉で飾らない。だからこそ、安心できる。
         そんなことを祐巳さんや由乃さんに言ったら笑われてしまいそう
        だけれども。
         けれど、志摩子は知っていた。お姉さまも、私と同じようにこの
        沈黙を心地よく思ってくれてるってこと。
         クシャリ。お姉さまが今度は狙って枯葉を踏んだ。何が楽しいの
        かよくわからないけど、お姉さまはたまにこうして子供っぽい遊び
        をする。前に一緒に歩いた時も、横断歩道の黒いところをひょいひ
        ょいと避けて、白いところだけを通っていたことがある。
         志摩子はフッと小さな笑いを洩らす。
        「あ、あれ祐巳ちゃんじゃない?」
         バス停の近くまで来た時、お姉さまが獲物を見つけたかのように、
        嬉しそうな声を出した。
         顔を上げればなるほど確かに。バス停でバス待ちをしているのは
        祐巳さんだった。あの二つ結びを間違えるはずがない。隣にいるの
        は祥子さまだ。
        「おーい、祐巳ちゃーん」
        「えっ!? わっ! 聖さまっ!?」
         お姉さまが祐巳さんのところまで走って行って、半ばタックルす
        るかのように抱きつく。志摩子はその後姿を目で追いながら、微笑
        を零した。
         ああやっぱりお姉さま、変わってない。
        「ごきげんよう」
         数歩遅れてバス停に到着した志摩子は、祐巳さんと祥子さまに挨
        拶をする。
        「志摩子さぁ〜ん」
        「ちょっと志摩子。聖さまをどうにかしてちょうだい」
         祐巳さんが泣きそうな声で、祥子さまが苛立った、けれどもどこ
        か仕方なく思っているような声で言う。
        「はぁ…それは…」
         志摩子はお姉さまの横顔を見ながら言った。
        「無理ですね」
         だって。
         これが、私のお姉さまだから。




+ + アトガキ + +

「白想」を書かせていただきました、綾菜と申します。
志摩子さんの視点で書いてみました。
パロディって初めて書くのでちょっとドキドキなんですが…
いかがでしょう…?? なんて意見を求めてみたり。
でもやはりこの二人は良いですねvv



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